解雇規制と緩和論にまつわる誤解

森友学園の文書書き換えで端に追いやられた感のある働き方改革。
世間の関心もそっちに行っていますが、生活への影響は森友問題より大きいのでこちらも忘れずにいたいものです。
今回の働き方改革には入っていませんが、雇用改革においてしばしば議論に上るのが解雇規制の緩和論です。
以前から議論はあったものの、企業が一方的に従業員を解雇出来るという懸念があるなどとしてその度潰されてきました。
解雇規制、その緩和論ともに誤解を基に論じられている部分がありますので、両者について取り上げたいと思います。

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誤解①日本は解雇規制が厳しい

一般に日本は解雇規制が厳しいと言われます。
そのため労働市場が硬直的になるなど様々な弊害が出ているため、規制を緩和すべきというのが解雇規制緩和論です。
しかし平均的に見ると、必ずしもそうとは言えません。
OECDの解雇規制に関する調査を見ると、確かに日本は厳しい方ではありますがそれほど際立ったものではなく、むしろアメリカやカナダなどの極端な規制の緩さの方が目立ちます。

こういったデータを根拠に解雇規制緩和反対論者は日本の解雇規制が厳しいというのは間違いで、緩和など必要ないと主張しています。

とはいえ、それも見方によって変わってきます。

(独立行政法人経済産業研究所『解雇に金銭解決の導入を』より引用)

上は各国の不当解雇の補償水準と職場復帰の義務・頻度を図にしたものです。
国によって程度は異なりますが、ヨーロッパは日本と比べ職場復帰よりも補償金によって解雇に規制をかけている傾向があります。
OECDの表で日本より厳しいとなっていたスウェーデンも補償金の水準が高いのが原因で、職場復帰の義務付けはそれほど厳しくありません。
一方日本はそもそも建前上金銭での解決が認められていないので、原職復帰しかありません。(そのため、日本で職場復帰を求めない労働者が高額の補償金を求める場合、まず民事裁判で原職復帰を求めた上で和解に持ち込み金銭を引き出すという煩雑な手順をとることがあります。)
したがって単純にクビにする難しさだけを考えると、やはり日本は世界トップレベルの厳しさだと言えるかもしれません。
もっとも、これは法律上の話で実際には関係が拗れた会社で働き続けるのは色々と不都合もあり、結局は金銭での解決を選ぶ労働者が多いようですが。

誤解②終身雇用は平等な制度である

終身雇用というと平等に皆を守ってくれるリスクの低い制度というイメージがあるかと思います。
しかし、実際には終身雇用は異なる身分の間に大きな格差を形成する要因になっています。
いわゆる派遣切りなど非正規労働者が正社員と比べ簡単に解雇されてしまうというのはイメージできると思いますが、正社員の中でも解雇に関してかなりの格差があります。

(透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会『要求金銭補償額の分析』)

 

上はあっせん、労働審判、民事裁判の和解、それぞれの解決金の差を図表にしたものです。
あっせんとは弁護士などの専門家が当事者の間に入って和解の手助けをする制度で、裁判よりも安価で迅速な解決が可能となります。
労働審判はあっせんと裁判の中間で裁判官と民間の審判員が解決に導く制度で、あっせんより強制力が強く裁判より簡潔という特徴があります。
見ての通り制度によって補償金に大きな差が生まれています。
あっせんと労働審判では数万円という雀の涙のような金額も珍しくない中で、民事裁判の和解の場合少数ですが2千万円を超えるケースもあります。
なぜこのようなことになるかというと、金銭解決に関するルールが十分に明文化されていないからです。
はじめから金銭補償を求めても、不当な解雇による損害賠償という形なのですぐに再就職していたりする場合は損害が少ないとみなされろくに補償を得られないということが珍しくありません。
民事裁判の場合、先述の通り日本では建前上金銭解決は認められていないのでまず原職復帰を求めて裁判を起こします。その上でどうしても会社側が復帰させたくない時、解雇による損失分だけでなく辞めてもらうための金銭が追加されます。
この結果があっせん、労働審判と民事裁判和解との解決金の格差です。

ならば皆民事裁判に訴えればよさそうなものですが、裁判というのは非常に費用もエネルギーも必要になりますし、中小企業の社員にそんな余裕は中々なくこういった手段が取れるのは大企業の正社員に偏ってきます。
そのため、大企業と中小企業の社員で解雇の際に得られる金銭に大きな差が付き、それは解雇の厳しさの格差にもつながります。
大企業では場合によっては億単位の補償が必要になるのに対し、中小企業ではそんな心配はないので比較的容易に解雇できコストもさほどかかりません。
更に正社員の雇用を守るために非正規労働者が雇用の調整弁として扱われており、結果として終身雇用は大きな格差を生み出しています。

誤解③企業が自由にクビに出来てしまうので緩和は危険

解雇規制の見直しとなると必ずこのような意見が出ますが、実は有識者会議など政策議論のレベルでは「解雇規制の緩和」といった主張はあまりなされていません。
単に企業が解雇しやすいように緩和しようというのではなく、ヨーロッパのような金銭解決の仕組みを作ろうという話です。
既に述べた通り日本は解雇に関するルールが曖昧で、得られる補償にもかなりの格差があります。
それに対し「金さえ払えばクビに出来るようにするのか」という批判もありますが、現行でも多くの場合結局不当解雇の解決は金銭によってなされており、中小企業の社員などは比較的容易にクビになって更に微々たる補償しか受けられていないという現実があります。

例えばよく例に出るドイツ。ドイツも原職復帰が原則ではありますが、金銭補償制度も整備されており、0.5~1.0×月収×勤続年数という式でスピーディーに補償金が算定され、企業に支払いが命じられます。
こうした金銭解決制度が導入されれば大企業にとっては規制緩和と言えるでしょうが、中小企業においてはむしろ規制強化となります。
まとめると金銭解決の導入によって①企業規模による補償の不公平を解消②大企業の解雇におけるコストの予見可能性が増すことで正社員の雇用が増える等の効果が期待できます。
金銭解雇によって企業による解雇の濫用が起こるという声もありますが、企業活動を行うにあたって人というのは絶対的に必要な存在であり、
長期的に低失業率が続き人手不足が年々強まっている日本で解雇をそれほどまで恐れる必要があるとは思えません。
現に日本やヨーロッパと比べて遥かに解雇規制が緩いアメリカでも失業率は日本とさほど変わらず、長期失業者の割合は日本より低いという数字もあります。
仮に今検討されてる中で最も使用者側に有利な形で制度を導入したとしても、アメリカより解雇が容易になる可能性はほとんどないでしょう。
そもそも雇用を守るといっても、正社員の雇用を守るために非正規労働者を雇用の調整弁として扱っている現状はとても胸を張れるようなものではありません。
労働者だけでなく使用者側にも申し立てを認めるか、補償金の上限、下限をどのように設定するかなど細かい問題は色々ありますが、大枠としては推進を前提に細部を詰めていくべきだと思います。

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