映画『日本で一番悪い奴ら』原作、元道警刑事の告白録『恥さらし』(稲葉圭昭)

通称「稲葉事件」で逮捕された、北海道警察の稲葉圭昭元警部が自らが逮捕に至るまでの経緯と、道警の腐敗を赤裸々に綴ったノンフィクション。
2016年には綾野剛さん主演で『日本で一番悪い奴ら』というタイトルで劇場公開もされました。
法の番人、治安の守護者である警察の衝撃的な腐敗の実態と著者の稲葉氏が関わってきた悪事が詳細に書かれています。

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内容

二〇〇〇年春、函館新港に運ばれてきた覚醒剤。その量百三十キロ、末端価格にして約四十億円。”密輸”を手引きしたのは北海道警察銃器対策課と函館税関であり、「銃対のエース」ともてはやされた刑事だった。腐敗した組織にあって、覚醒剤に溺れ、破滅を迎えた男が、九年の服役を経てすべてを告白する――。
二〇一六年六月二十五日公開、映画『日本で一番悪い奴ら』(主演・綾野剛)原作。

「稲葉事件」とは?
日本警察史上、最大の不祥事が明るみに出た事件。2002年7月、北海道警察の生活安全特別捜査隊班長である稲葉圭昭警部が、覚せい剤取締法違反容疑と銃砲刀剣類所持等取締法違反容疑で逮捕、有罪判決を受けた。公判において、北海道警察による「やらせ捜査」や「銃刀法違反偽証」などが明らかになるとともに、北海道警裏金事件が2003年に発覚するきっかけともなった。

稲葉氏は高校大学と柔道に打ち込み全国レベル活躍をし、その腕を見込まれてスカウトされ、北海道警察に入りました。
試験勉強はしていなかったので筆記は駄目だったそうですが、柔道枠なので問題なかったとのこと。
その後交番勤務、柔道特別訓練隊員を経て刑事へとなります。
そこで初動捜査を担当する機動捜査隊に配属され、先輩からエス(スパイの略)と呼ばれる情報提供者を作ることを教えられます。
蛇の道は蛇ということで、捜査を行うために日ごろから犯罪の情報を持っているヤクザや薬の売人と関係を深めるというわけです。
稲葉氏は先輩の教え通りにヤクザや水商売関係者、繁華街の経営者と接触、色々な情報が集まるようになりました。

それでも警察のノルマは非常に厳しく、罪状と逮捕した相手によって点数が変わり、ノルマに届かないと手当が出ないといったペナルティもあったそうです。
点数が足りない時は逮捕した容疑者をヤクザということにしたり、わざとヤクザに喧嘩を売って逮捕したこともあったというから驚きです。

その後筆者は巡査部長になって所謂マル暴に異動になりますが、そこでの主な仕事は抗争に使われた拳銃の摘発でした。
摘発といってもそれは半ば出来レースのようなもので、事前に警察が連絡しヤクザが組員一人に拳銃を持たせて出頭させるといったものでした。ヤクザは警察に捜査されずに済み、警察は労力を掛けずに実績を上げられるという利害の一致があるためです。
ヤクザもなんの見返りもなしに情報を提供することはないので、こんな調子で違法行為を見逃したりシノギを紹介したりと持ちつ持たれつの面があったといいます。
それでもあくまで捜査のためという意識があったようですが、段々と稲葉氏は一線を踏み外していきます。

当時警察庁が拳銃摘発に力を入れ始め、自主減免規定というものが出来ました。
これは自首すれば銃器を所持していても無罪か刑を軽くするというもので、これを利用して架空のストーリーでヤクザに出頭させることがしょっちゅうで、ヤクザの手元に銃がない時は警察の方で銃を用意することもあったというから呆れます。
ヤクザとしても大した罪になることもなく警察に恩を売ることが出来るので頼みに応えました。
こんなでっち上げ捜査ではまるで治安の改善にはつながりませんし、ヤクザに見返りを与えることを考えたらかえってマイナスだと思うのですが、当時の稲葉氏はじめとした警察関係者は苛烈なノルマに追われとてもまともとは呼べない捜査に手を染めていきました。

稲葉氏はその後も違法なおとり捜査など問題のある捜査を行っていくわけですが、その中で僕が最も驚いたのは麻薬関連の泳がせ捜査です。
平成十一年に稲葉氏はエスの一人から「拳銃を大量に密輸させ警察に押収させるので代わりにシャブを輸入したい」という提案を受けます。
いくら拳銃を摘発するためとはいえ治安維持が仕事の警察が麻薬の密輸に協力する、しかもその拳銃も摘発させるために言わばでっち上げで輸入するわけですからこんな話は当然断るべきです。
しかし道警は拳銃二百丁の実績欲しさにこの話を受けてしまいます。
税関に根回しし麻薬の密輸を成功させたもののエスが失踪、拳銃を密輸する計画は嘘でまんまと騙されたとわかります。
結局何の成果も得られず、警察が覚せい剤130トン、大麻2トンの密輸の手引きを行っただけで終わったというのですから呆れて物も言えません。
のちに稲葉氏は取り調べや裁判でこの件について述べますが、結局真相が究明されることはなかったといいます。

その後稲葉氏は麻薬の密売に加担した他自ら覚せい剤を使用し、エスの一人に告発され逮捕、裁判にて有罪判決を受けます。

不正の背景にある過剰なノルマ主義

犯罪の情報を得るために協力者と関係を築く必要があるのはわかりますし、捜査をするのに綺麗ごとだけでは回らないのもある程度は仕方ないのかもしれません。
しかし本書で書かれた内容は治安の維持という警察の存在意義からはずれたものが多く、明らかに度を越しています。
まして著者は自ら覚せい剤の使用までしているわけですからとても擁護はできません。
とはいえ全てが稲葉氏個人の責任かといえばそうでもなく、少なからず警察という組織自体にも原因があるのも確かです。
警察でこのような不正が起こってしまう要因は色々あるでしょうが、その一つに過剰なノルマ主義があるのは間違いありません。
本書に出てきた警察関係者も必ずしも私利私欲ばかりではなく、上から課される厳しいノルマに応えようとするうちに道を踏み外していった部分が少なからずあります。
そもそも少子化もあって日本全体で犯罪自体が減少していますし、そのような中でも変わらずノルマの達成を求め続ければインチキに走る人間が少なからず出てくるのは当たり前のことです。
稲葉氏が信頼している上司だったと述べている原田宏二氏が後に道警の裏金問題を告発するなどしていますが、警察の根本的な体質がどこまで変わったかは怪しいものです。
ノルマがないと手を抜いてさぼってしまうという懸念もあるかもしれませんが、少なくとも極端な点数主義を見直してより広い視野で成果を計る必要があるでしょう。

感想

現場の中心にいた元刑事が書いただけあってリアリティがある内容でした。
本筋ではありませんが覚せい剤を使用しておかしくなっていく様も生々しかったです。やっぱりクスリは駄目ですね。
警察の不正や汚職は時折耳にはするものの、まさかここまで滅茶苦茶だとは思っていなかったので衝撃でした。
犯罪を取り締まる警察がこれでは真面目に法律を守っている一般市民が馬鹿みたいですが、これが今の日本の現実ということなのでしょう。
警察というのは普通それほど接点はないですが、僕たちの生活にとって重要な存在なのは間違いありません。その裏側を知るのに適した一冊。

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