三洋電機消滅の記録『会社が消えた日 三洋電機10万人のそれから』(大西康之)

新潟中越地震での工場被災をきっかけに経営危機が表面化、2006年に米ゴールドマン・サックスグループ、大和証券SMBCグループ、三井住友銀行の金融3社から3000億円の出資を受けた三洋電機。その後、携帯電話、デジカメ、白物家電、信販といった事業は切り売りされ、本体はパナソニックに買収された。散り散りになった旧経営陣は今何を思い、10万人の社員たちは今どこで何をしているのか。経営危機の渦中、同族企業の混乱を克明に取材し、その後も電機業界の動向を見続けてきた新聞記者が、多くのビジネスパーソンにとって決して他人事ではない「会社が消える日」を描く。
たとえ今の職場がなくなっても、人生が終わるわけではない。では、どこに向かって次の一歩を踏み出すか。かつて三洋電機に在籍した人々のその後の歩みは、貴重な示唆に富んでいる。重苦しいテーマを扱いながら、本書が「希望の物語」となっているのは、そこに会社を失ったビジネスパーソンの明るくたくましい生き様が垣間見えるからだ。

2011年にパナソニックの完全子会社となった三洋電機の消滅を書いた一冊。
かつての大企業がなぜ買収されるまで衰退したのか、経営が傾きそこに至るまで何が起こっていたのか。
元社長や会長、社員への取材を通しその舞台裏が詳しく描かれています。
経営陣の迷走、金融機関の冷徹さ、厳しいリストラ……。それらがそれぞれの当事者を通して語られることで型通りでない臨場感が感じられます。

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これは三洋電機について書かれた本ですが、三洋電機で起きたことはある種日本企業全体の縮図だと感じました。
優秀ながら職人気質でマーケティング不在の現場、優れた技術を持ちながらそれを十分に活かせないマネジメント、韓国や中国など新興国の猛追、それらの国の企業による技術者の引き抜き、経営が悪化した末の他社による買収。
利益を軽視して市場シェアを追ってしまう所など日本企業ではよく見られることです。
本書でもこのままでは日本の電機産業は厳しく同じことが他の大企業にも起こりうると警告していますが、
実際にその後SHARPは経営悪化により台湾の鴻海科技集団に買収され、東芝もまた原発子会社の影響で解体の危機を迎えています。
本書では韓国型の再編ももはや手遅れで、日本経済全般に悲観的な見方をしています。

その一方で三洋からリストラに遭いながらも起業したり、全く異なる業種で活躍する三洋の元社員の姿からは微かな希望も感じ取れます。
三洋電機のドキュメンタリーとしても、日本の電機産業ひいては日本企業全体の今とこれからを読み解く上でもおすすめの一冊。

ただ二点気になる所があったので突っ込みを入れます。

2013年下期、日本の経常収支が初めて赤字になった。経常収支とは貿易・サービス収支、所得収支及び経常移転収支の合計であり、企業で言えば最終損益にあたる。「日本株式会社」が初めて赤字転落したのだ。

まず一点。
本文でこのように書かれていましたが、国の経常収支というのは企業の最終損益とは全くの別物で、黒字ならいいというわけではなく赤字なら悪いというわけでもありません。
トランプ大統領も同じような勘違いをしていますが、基本的に日本の経常収支はずっと黒字、アメリカは赤字が続いています。
しかしGDP成長率にせよ賃金にせよ上昇を続けたのはアメリカの方で、黒字の日本は長らく経済の低迷に苦しんでいます。
このように経常収支が黒字だからといって経済や生活水準にとってプラスであるとは限りません。

 

しかし、資本家不在の日本では、創業家が去った後、誰が企業の所有者なのかよくわからなくなる。大企業の株主は機関投資家と個人投資家だが、経営に対する影響力が低すぎて、社長をすげ替えるような発言権はない。プロスポーツで言えば、そのチーム生え抜きのOBがたらい回しで監督をし、チームの成績が悪くても、彼らの首を切るオーナーがいない状態だ。  かくして、生え抜きのサラリーマン社長たちが、結果責任を負うこともなく、まるで企業の所有者のように振る舞う。よほどの不祥事でも起こさない限り、彼らが解任されることはない。監視役のいないサラリーマン社長は、自分の任期をつつがなく過ごすことにかまけ、未来への投資を怠り、問題を先送りする。

もう一点。要するにアメリカやイギリスと比べ相続税率が高く資本家がいない日本では生え抜きのサラリーマン社長が質の低い経営を行い、プロの経営者が生まれないという主張ですがこれはむしろ逆ではないかと思います。
大株主が機関投資家であれば基本的に利益第一の人選でなんのしがらみもないため社内外を問わず適任の人材を選ぼうとする、つまりプロの経営者を選ぶ可能性が高くなります。
むしろ創業一族のような資本家が大株主となっている方が、利益以外の思い入れから身内びいきの人事になる可能性が強いのではないでしょうか。
三洋電機がまさにそうですし、この後創業家として例に挙がっているサントリーやトヨタ自動車もトップの多くを一族の人間が務めてきました。
逆に創業家が手放した例として挙げているソニーの方がハワード・ストリンガー氏のような外国人さえ起用しているわけです。
そもそもほとんど相続税がないアメリカはともかくイギリスとはそこまで大きく変わらないですしね。

日本でプロの経営者が生まれにくいのは資本家云々より日本型雇用慣行が大きな原因だと思われます。
終身雇用制度の元では一度入社すれば基本的にその会社を離れることはありません。
あくまでその会社の中で出世のピラミッドを登ることが目標になるので、複数の会社を渡り歩くようなプロ経営者は当然生まれにくくなります。
また会社側としても会社のポストというのは会社に忠誠を誓う社員に与える重要なものなので、その頂点である社長の椅子を外部の人間に渡すことなどそうそう出来ません。
従って需要の面でも供給の面でもプロの経営者が生まれる余地が少なくなり、専ら生え抜きのサラリーマン社長が生まれることになります。
原田泳幸氏のような日本の数少ないプロ経営者の多くが外資系企業を経由しているのも偶然ではないでしょう。
もっとも、日本の終身雇用も昔ほど強固ではなくなってプロの経営者も徐々に増えてきたように見えます。
日本型雇用慣行が更に崩れれば日本のマネジメントの質も上がっていくのではないでしょうか。

 

話が脱線しましたが、これらは本論とは外れた部分ですし全体としては良い本だと思います。

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