食料自給率という無意味な指標

食料自給率という言葉があります。
少し前までは年中メディアで国の一大事として騒がれていましたが、最近はあまり見かけなくなっていたのでマスコミもこの食料自給率がいかに問題だらけであるかに気付き取り上げることも減ったのかと思いきや
先日こんな記事が。食料自給率、38%に下落=過去2番目の低水準-政府目標、達成困難に(時事通信2017年8月29日)
ネットの反応を見ても食料自給率を上げなくては大変だといった反応が目立ちました。
これから書くことは他で散々指摘されていることではありますが、それにもかかわらず多くの国民がそれを知らないという現実があるのでこのブログでも改めて問題点をまとめたいと思います。

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日本の食料自給率は低くない

まずそもそも日本の食料自給率は言われているほど低くありません。
下のグラフは各国の食料自給率をグラフ化したものです。

オーストラリアやカナダのような農業大国とは差がありますが他先進国と比べ際立って低いわけではないことがわかります。

(農林水産省 「食料自給率とは」より)

これは生産額ベースの食料自給率と呼ばれるもので、計算式は

国内の食品総生産額÷国内で消費する食料の総生産額

となります。

じゃあ低い低いと言われているのはなんなの?と思うかも知れませんが、
それはカロリーベースの食料自給率のことを指します。

カロリーベース食料自給率

(農林水産省 「食料自給率とは」より)

国名がなぜか見づらくなっていてすみませんが、これが各国のカロリーベースの自給率を比較したグラフです。

国民1人1日当たりの国内生産カロリー÷国民1人1日当たりの供給カロリー

※国民1人1日当たりの国内生産カロリーとは国産供給カロリー+輸入供給カロリー+ロス廃棄カロリー

 

上がカロリーベースの食料自給率の計算式であり、確かにこれを見ると日本の自給率は非常に低く見えます。

しかしカロリーベースの食料自給率は非常に多くの問題点が指摘されており、それをここから見ていきたいと思います。

カロリーベース食料自給率の問題点

まずカロリーベースの食料自給率を使っているのは日本だけです。
国際的に使われているのはあくまで生産額ベースで、それにしても日本ほど農業政策には影響していません。
カロリーベースの食料自給率というのは実は日本の農林水産省が独自に作った指標で、厳密に言えば韓国や台湾など一部の国も日本の影響で使っているが政策としてあまり重視していません。
なぜ他の国で使われないかと言えば、食の安定供給とは無関係な役に立たない指標だからです。

上に書いた通り国民一人当たりの供給カロリーとは「国産供給カロリー+輸入供給カロリー+ロス廃棄カロリー」ですが、これは国民が実際に摂取しているカロリーではありません。
2005年の国民一人当たり供給カロリーは2573kcalですが、日本人が実際に摂取する平均カロリーは1873kcalにすぎません。
「飢えないための安定供給」ということであれば後者の1873kcalを満たせればいいはずですが、
農水省方式の計算では無駄に分母が大きくなり自給率が低く見えるようになっています。
何よりこの計算式に従えば輸入、フードロスをゼロにすれば国内生産を一切増やさなくても自給率は100%以上になってしまいます。
食料の供給量は減っているにもかかわらず自給率は上がっている、そんな指標が安定供給の目安として使えるでしょうか。
そんなに自給率を上げたいのであればフードロスを減らす方が生産を増やすよりずっと簡単でフードロス大国の汚名返上にもつながるのに、農水省はそれには一切触れません。

また上述の通りカロリーベースの自給率はほぼ日本しか使っておらず、他の国では算出すらしていません。
ではどこから他国の数字を持ってきているかと言えば、農水省が日本だけでなく他国の数字も独自に計算しておりその細かい計算方法も非公開、これではその数字がどこまで正しいのかもわかりません。
さらにカロリーベースではカロリーの低い野菜は過小評価され、牛肉などは国内で育てていても飼料まで国産でないと日本産にはならないため国産の食肉は自給率に含まれない等の問題もあります。

そもそも資源・エネルギーを気にせず食糧自給率だけを単独で取り上げても意味がありません。
飼料や肥料もそうですし、石油やガソリン等、食料以前の段階で日本は海外からの輸入に頼っており
日本のエネルギー自給率は5%と言われています。
そのような状況で食料自給率だけ上げた所で意味がないですし、現実的には食料禁輸がされるような状況より石油などの資源が禁輸に遭う可能性の方がよっぽど高いと言えます。

 

なぜ農水省はこのような問題だらけの指標を作り上げ、尚且つ政策の中心に据えて国民を扇動してきたのでしょう?
今でこそ金額ベースについても公表していますが、問題点を指摘される前は国際的に一般的な生産額ベースの自給率については伏せてきました。
予算獲得、天下り確保のために実際より自給率を低く見せかけてきたとする声もあります。
断定は出来ませんが個人的には十分あり得ると思います。
農水省に限らず日本の省庁は日本の問題を実際より大きく誇張する傾向があります。
自分達の存在意義をアピールし、予算を増大、業界での権力を拡大し天下りなどの権益を得るためなのかわかりませんが、なんにせよ省庁の都合で政策が歪められているのであれば、それを是正するには国民が賢くなるしかありません。

まとめ

国内生産を増やさずとも輸入を減らせばそれだけで自給率が上がるというのは既に述べましたが、
仮に食料の輸入をゼロにしたとして果たしてそれで日本の食の安定性は高まったと言えるでしょうか?
例えば天候不順や大規模な災害が起これば国内の農業は多大なダメージを受けることになり、
その時輸入が無ければ日本は深刻な食糧難に陥ることになりかねません。

自給率が高いからといって食の安定供給が保たれているとは言えず、むしろ非常にリスクを高める結果にもつながり得ます。
「卵は一つのカゴに盛るな」という格言が投資の世界にはあります。
一つの対象にだけ投資をしていると、それで失敗した場合全てを失ってしまうからリスクを減らすため投資先は分散しろという意味です。
それを農業にあてはめれば国内の供給に頼るのもそれはリスクの高い行為であり、リスクを下げるためには供給先の多様化が重要になってきます。
現実的には考えにくいですが複数の国から食料を含めた禁輸措置を受けたとしても、他の輸入先でカバーできればそこまで危機的な状況にはなりません。
従って本当に食料の禁輸なんてことを心配するのであれば重要なのは自給率の上昇などではなく供給元の多様化であり、何よりそんな状況に陥らないための外交努力であると言えます。

その上で農水省がすべきことはいまだに抱えている自給率の目標を放棄し、ちゃんとした目標を設定することです。
日本の農業が目指すべきは自給率の改善などではなく、他国に食料を輸出できるような農業の競争力強化だと思います。

 

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