成果主義を導入しても残業が減らないわけ

2017年7月28日

長過ぎる日本の労働者(正社員)の労働時間が問題になって久しく、過労死が頻発し海外メディアにも取り上げられる程になっています。
企業の生産性を高めるためにも労働時間の短縮は重要な課題となっています。
それに関連してリクルートマネジメントソリューションズが「20~30代正社員の労働時間についての実態と意識」というレポートを出しています。

スポンサーリンク

グループによって労働時間が長くなる理由が異なる一方、今と同じでよいという人も

その中でA群=200時間以上、B群=160時間以上200時間未満、C群=160時間未満と月の平均労働時間によって3つのグループに分けています。
A群は7割がもっと短い方が望ましい、25%が今と同じでよい、B群が42.2%がもっと短く、53.7%が今と同じ、C群は32.9%がもっと短く、63.0%が今と同じでよいと回答しています。
当たり前ですが現在の労働時間が長いほどもっと短く、短い人ほど今と同じでよいという解答が増えています。
一方でどのグループも4%程もっと長い方がいいと答えているのは興味深いですね。

さて、労働時間を短くできない理由ですがA~C群ともに仕事量が多いからという解答が最も多くなっています。
一方で二番目に多い理由はA群だと「突発的な予定が入ったり、相手の都合に左右されたりする仕事だから」、B群は「自分で労働時間を決められないから」となっており、C群は「締切や納期にゆとりがないから」、「自分で労働時間を決められないから」、「給料が減ると困るから」が同率で並んでいます。

一方で「今と同じでよい」とした人達は「今の給与水準を維持したいから」、「今の生活リズムを変えたくないから」等の理由で今より長くも短くもしたくないと答えています。

ここから仕事時間が短くならない理由は一つではなく、いくつかのパターンに分かれていることがわかります。
以下でそれぞれのパターンと原因を見ていきましょう。

1.仕事の量が多いから

これは単純明解ですね。いくら裁量を与えられた所でそもそもの仕事量が多過ぎるので早く帰りようがありません。
過労死が発生するのも多くはこのパターンでしょう。
この場合は労働者に裁量を与えたところで労働時間は短くなりません。
ではどうすればいいのか?それを考える前にまずはそもそもなぜ仕事量がそんなに多くなってしまうのかを考えましょう。

韓国やアメリカのように諸外国でも労働時間が長い国はありますが、日本の労働者(正確には正社員)ほどではありません。
そうなる原因は終身雇用を中心とした日本的雇用慣行にあります。
終身雇用制度の元では景気が悪くなって仕事が減っても社員を解雇するのが簡単ではありません。
そのため正社員を雇うのは企業にとって大きなリスクを抱えることとなり、好景気の時でもあまり採用を増やさず、既存の社員に残業させることで対応する傾向があります。
結果として正社員の労働時間が伸びることになり、これは終身雇用が根強い大企業ほど残業時間が増えていることとも辻褄が合います。
実際この調査の対象になっているのも全て大企業の正社員です。中小企業で調査を行えばまた違った傾向が表れる可能性は高いでしょう。

「メンバーシップ型」という、これまた日本独特の雇用慣行も原因の一つです。
これも終身雇用と関係があるのですが、新卒採用を中心として採用を行い総合職という名の通り職務を限定せず、事業環境の変化に応じて配置転換や転勤をさせ、長期的に訓練を施しチーム単位で仕事を行うシステムのことです。
一方日本以外の多くの国では「ジョブ型」と呼ばれるシステムとなっており、このシステムでは
採用の段階から職務を細かく限定され、個人の仕事の範囲が明確になっています。
そのため手が空いたからといって他の人の仕事を手伝うようなことはなく、早く仕事が終わればすぐに帰ることも可能です。
それに対して日本の場合元々の職務内容が限定されていないため、仮に自分の仕事を早く終わらせても他の都合で次から次へと仕事を回されかえって仕事量が増えかねないということになります。

また、これは日本企業からしばしば聞かれる「成果で評価をするのが難しい」という声の原因でもあります。
職務の範囲がはっきりしないためにパフォーマンスの評価が一段と難しくなってしまっているのです。

つまり、単に正社員の裁量を増やしたり成果主義を導入しただけでは必ずしも労働時間の短縮にはつながらず、それと同時に「終身雇用」、「メンバーシップ型」といった日本的雇用慣行全体を見直す必要があります。

2.自分で労働時間を決められないから

これも上と関連するのですが、日本的雇用慣行の元ではチームで働くのが基本となるので個人の裁量が小さくなりがちです。
調整のための会議がやたらと増え、勤務時間も細かく管理されることになります。
また、上で述べたように成果での評価が困難な為に長時間働いている人間を評価する傾向が生まれ、
自分の仕事が終わっても上司がまだ働いているから帰れない、効率よく仕事をしてもメリットがないので生産性が上がらない、といったことにもつながります。

この場合は社員の裁量を増すことで改善できると思われますが、それだけでなく日本的雇用慣行そのものを見直す必要があるのは1と同じです。

3.今の給与水準を維持したいから

これもまた日本的雇用慣行と関係があります。
成果での評価が難しいために、日本ではパフォーマンスより労働時間が評価につながる事が多いと上で述べましたが、そのために正社員の給与もアルバイト的時間給に近い考えになります。
同じ量、同じ質の仕事の場合早く終わらせた所で給料が上がるわけでもなく、時間を掛けて残業をした方が
残業代が出るため給料が増える、そのためこのように給与水準を維持するために残業をするという人が出てきます。
実際、2017年の3月に「fabcross for エンジニア」が行った調査では「残業する主な要因は、残業費をもらって生活費を増やしたいからだ」という答えが最多となっています。

これは本人はそれでいいかも知れませんが、生産性という観点からは最悪で、こういった人が多い企業や国の競争力が落ちるのは火を見るより明らかでしょう。
これは単純に考えれば残業代をなくしてしまえば解決しますが、一方で残業代なしで際限なく働かされてしまうリスクもあるので、労働時間に対する上限規制が必要になってきます。

まとめ
・残業が減らない理由は一つだけでなく色々なパターンがある
・労働時間を短縮するには日本の雇用制度を根本から変える必要がある

ここまで見てきた通り、日本の長時間労働の原因には日本独特の雇用慣行があり、
働き方改革を進めるには何か一つを変えるのではなく雇用システムを根本から変えていく必要があります。
政府もそれは認識していて、今の所中途半端な内容ではありますが同一労働同一賃金や労働時間の総量規制など多方面での改革を並行して進めています。

一方では「日本的雇用慣行は日本人の気質や文化に合わせて出来たものなのだから変えるべきではない」といった声もありますがそれは違います。
現在のような雇用慣行の大元は太平洋戦争の国家総動員法にあると言われています。それが高度成長期の状況にマッチして定着しました。
つまり今の制度が出来てから100年も経っておらず、しかも戦時中という極めて特殊な状況下で成立した制度なのです。
それ以前は日本もヨーロッパ型に近い職務限定の働き方をしていました。
そもそもこれだけ過労死が続出し、生産性も低く不満も多い時点で日本人にはまるで合ってないシステムだと言えるでしょう。
文化や気質を言い訳にせずやるべきことを怠らなければ日本の労働環境は必ず変わるはずです。
そのためにはまずメディアや国民が日本の雇用の現状についてきちんと理解し、どのような制度が望ましいかを考える必要があります。

スポンサーリンク