残留孤児をテーマにしたミステリー小説『闇に香る嘘』(下村敦史)

2017年7月19日

『闇に香る嘘』は第60回江戸川乱歩賞受賞作で、下村敦史氏のデビュー作です。

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「週刊文春ミステリーベスト10」で2位、「このミステリーがすごい!」で3位を獲得しました。

今回はその内容の紹介と感想を書いていきます。

あらすじ

村上和久は孫に腎臓を移植しようとするが、検査の結果、適さないことが分かる。和久は兄の竜彦に移植を頼むが、検査さえも頑なに拒絶する兄の態度に違和感を覚える。

中国残留孤児の兄が永住帰国をした際、既に失明していた和久は兄の顔を確認していない。27年間、兄だと信じていた男は偽者なのではないか――。

全盲の和久が、兄の正体に迫るべく真相を追う。

(公式より)

というのがあらすじです。

主人公の村上和久は不仲になっている娘との関係を取り戻すために、腎臓病を患う孫に腎臓を提供をしようとしますが、検査の結果腎臓の数値が悪く提供することができません。

そこであまり仲のよくない兄に移植してもらうよう頼むのですが、にべもなく断られます。

謝礼は出すし実際に提供しなくても検査だけでも受けてくれないかと頼みますがそれも断られます。

その不自然なまでに頑なな態度を不審に思う和久。和久は満州での栄養失調がたたってかなり前に失明、中国残留孤児であった兄の顔は見ていません。

かつては優しく頼りがいがあったはずの兄の性格は、利己的で他人を顧みないように変わっています。

ひょっとすると、今の兄は偽物で赤の他人がなりすましているのでは?という疑いを抱いた和久が兄の身辺を探る、という大筋。




盲目ゆえの謎

あらすじにもある通り、主人公の和久は目が見えません。

そのため、健常者であれば一目で分かるようなことでも和久にはそれがわからない。

例えばよく見知った人物であっても、その人が一言も発さなければ得体の知れない謎の人物になってしまうわけです。

更にこの主人公はストレスがたまるとアルコールで精神安定剤を飲むという困った習慣があり、そのせいで度々記憶が飛んでしまいます。

普通ならばなんでもないようなことでも主人公の特殊な状況故に、真相がぼやけて謎が深まるという手法は面白いなと思いました。

小説なので元々ビジュアルはないのですが、目の見えない不安や苛立ちがよく表現できていて読者は主人公に無理なく感情移入できます。

テーマは中国残留孤児と家族愛

ジャンルとしてはミステリー小説ですがいわゆる本格ではなく社会派寄り。

どんでん返しもあり飽きることなく読めるのですが、謎の答え自体に派手さはありません。

作品の主題としては謎解きより中国残留孤児問題と家族愛の比重が大きいように思います。

作者はまだ33歳なので残留孤児問題が身近な世代ではないと思いますが、よく調べてあるのがわかります。戦争から70年以上が経ちもはや風化しかけている問題かも知れませんが、その苦しみや困難が垣間見える気がして色々と考えさせられます。

それに娘と孫、兄と母、それぞれの愛情と支えあう家族の姿が描かれており、心温まる作品となっています。

なのでミステリーというよりはそういった社会的、ヒューマンドラマ的要素が好きな人の方が合ってるかもしれません。

 

乱歩賞の選考委員の評価も非常に高く、実際面白い作品だと思うので読んでみてください。

個人的オススメ度


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