人が老いることがなくなった世界を描く社会派歴史改変SF『百年法』(山田宗樹)

2017年7月20日

今日はおすすめの小説を一冊紹介します。
山田宗樹先生の歴史改変SF『百年法』です。
山田宗樹氏は映像化もされた『嫌われ松子の一生』で有名な作家ですね。
あれは現実的な世界での女性主人公を中心にしたミステリーでしたがこれは大分毛色が違います。

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作品概要

歴史改変SFというのはフィリップ・K・ディックの『高い城の男』のように、『もし第二次世界大戦で枢軸国が勝っていたら』といった具合に現実と異なる歴史を歩む世界を描くジャンルです。
ではこの小説はどのような”if”を描くのか、まず公式のあらすじを見てみましょう。

1945年、太平洋戦争終結。日本には原子爆弾が6発投下され、都市部は壊滅。
人口は半減。日本全土を支配下に置いたアメリカは天皇制を廃し、共和制を敷いた。
そんな中、GHQはすでにアメリカで実用化されていたヒト不老化技術(human-ageless-virus inoculation:HAVI)を日本に導入することを決定する──。
そのHAVIの導入時に一つの法律が制定された。生存制限法。
通称「百年法」。
「HAVIを受ける者は、処置後百年を経て、生存権を始めあらゆる権利を放棄することに同意せねばならない」
つまり、百年後には死ななければならない。
そんな日本で、その最初の百年が迫っていた……!?
HAVIをつかさどる官僚・遊佐章仁、国益を追求する政治家・永尾聖水、母がまもなく百年法による死を迎える大学生「僕」、
HAVIの世界に反旗をかかげる「阿那谷童仁」
……様々に思惑が渦巻く“世界”はどこへ向かうのか!?

 

原爆が6発投下されたり人口が半減したりと現実以上に酷い目に遭った日本が舞台ですが、
この小説の肝はそこではなくヒト不老化技術と呼ばれるテクノロジーにあります。
読んで字の如く人を不老にし、従って老衰で死ぬこともなくなります。
しかし、当然人が死ななくなれば果てしなく人口が増えてしまいますし、また小説では何故か肉体が老化しなくとも感性が鈍ってイノベーションを起こせなくなり、この技術を導入した国は軒並み衰退してしまうという事態を迎えています。
そこで各国は寿命が伸びても生きる権利に時間的制約を決め、日本も「百年法」と呼ばれる法律を制定しようとしていました。
しかしこれはいわば国家が老人を殺す法律なわけですから、当然年齢が高い者を中心に反発が起こります。
百年法の施行が迫る中日本国民の選択は……?そしてヒト不老化技術に思わぬ新事実が……。

というのが大きなネタバレなしに書ける範囲ですので興味を持った方は是非実際に読んでみてください。

 

読み始めると止まらない 圧倒的リアリティ

この作品を読んで特に印象に残ったのはそのリアリティです。
作者が筑波大学大学院で農学を専攻し、製薬会社で勤務していたというだけあって科学的な描写もしっかりしていますが、
それ以上に僕がリアリティを感じたのはヒト不老化技術を受けて変容する社会の姿です。
ヒト不老化技術という未曾有の技術と百年法というある種冷酷な法律に翻弄され大きな決断を迫られる国民、刻々と変化する状況への対応に忙殺される官僚、抜け目なく立ち回る政治家……。
ヒトが老いなくなるというトンデモ技術のある世界でありながら、どこか現実の日本を見ているような気分にもなります。
割とSF小説はどこか現実離れした感覚になるものも多いのですが、この小説は現実の延長であるということを意識させられます。
思うに設定は突飛であっても登場人物の心情描写がしっかりしていて、そこに感情移入できるから生まれるリアリティなのではないかと思います。

娯楽としても面白いのはもちろんですが民主主義、独裁政権、人の命、老いること、等々色々と考えさせられる作品です。
上下巻と結構なボリュームですが一気に読み終わりました。

いつか映画化されるんじゃないかなとも思うので、これを機に読んでみてはいかがでしょう。

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