「若者の自殺が減っていない」は嘘

リーマンショックから経済が回復するにつれ自殺者が数、率ともに減少を続けているのは度々ニュースになっていますが、
その際に「若者の自殺は減っていない」といったことも言われますが、これは必ずしも正しくありません。
中には「若者の自殺が増えている」なんて書かれている記事もありますが、それは全くの間違い。
「若者」というのが何歳を指すのかは記事や資料によって異なっていますが、広い物で30代まで、多くは10代から20代までを指しているようです。

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自殺死亡率の推移

では実際には若者の自殺率はどうなっているのでしょう。
15歳~19歳、20歳~24歳の自殺死亡率をグラフにしたのが以下の図になります。

(厚生労働省 人口動態統計より)

グラフを見ると20~24歳に関してはサブプライムローン問題からリーマンショックによる景気悪化を機に、平成23年にピークに達してから景気が回復するにつれ目に見えて減少しており、ここ10年で最低の数値になっています。
平成29年も現在までの速報値で自殺減少の傾向が続いていることが窺え、このままいけば最低値を更新する可能性が高いと思われます。
「若者の自殺が減っていない」「若者の自殺が増えている」とまことしやかに囁かれている言説が間違っているとわかります。
一方で、15~19歳に関しては20~24歳ほどの減少は見られません。一応この世代も10年で最低の数値ではありますが、上の世代と比べるとあまり景気と連動していないように見えます。
これは10代の場合多くが学生で高校を卒業しても進学する人が多く、元々景気の影響を受けにくいためでしょう。
ではそれぞれの自殺の主な要因はなんなのでしょうか。

自殺の理由

(厚生労働省 平成28年中における自殺の状況 付録1 年齢別、原因・動機別自殺者数より)

 

自殺率のデータと年齢区分が違うので注意が必要ですが、20代で勤務問題、経済・生活問題が合わせて30%を超えるのに対し10代の場合8%しかないことがわかります。
経済が悪化すると失業率が上がって就職率が下がり、減給や解雇のリスクも高まりまた職場環境に不満があっても転職することも難しくなります。
健康問題もうつ病に関するものが多く、経済の悪化が悪影響を及ぼすと想像でき、以上の理由から20代では景気に応じて自殺率の変動が起こるものと思われます。

一方で10代は自活をしているものが少なく、景気の影響を受けることが少ないためこのようなデータになっているのでしょう。
その中で学校問題が際立って多いのですが、そのうちいじめが理由のものはイメージに反して少なく、入試に関する悩み、その他進路に関する悩み、学業不振の悩みと成績や進路に関するもので大半を占めます。
自分も経験したからわかりますが、受験勉強のプレッシャーとストレスはかなりのものですからね。僕は自殺するほど思い詰めはしませんでしたが、うまくいかないと精神を病んで自殺するような人が出てきてもおかしくないとは思います。

10代の自殺の背景と解決策

減ったといってもまだ日本の自殺率が高い水準にあるのは事実で対策をする必要があるのは確かですが、
ここまで見てきたことで10代と20代から上では異なるアプローチが必要なことがわかります。
学業不振も進路も結局は将来に関わってくるものですから、自分の将来への不安やうまくできない自分への嫌悪などが背景にあるんじゃないかと想像します。
既に大人になった人が自分の過去を振り返ってそんなの大したことじゃないと言うのは簡単ですが、当人たちにとっては目の前にあるものが全てですから中々心には響かないでしょう。

思うにこれは日本の入口を極端に重視する社会システムが影響しているのではないかと思います。例えばアメリカの場合、大学入試はもちろん重要ですが仮にそこで失敗してもコミュニティカレッジのような敗者復活の道もありますし、大学名だけでなく専攻や大学での成績で十分取り返すことができます。
日本のように新卒の年齢制限もないので一度きりのチャンスにそこまでプレッシャーがかかることはありません。
翻って日本は中国や韓国、インドといった国ほど熾烈ではないものの受験競争が活発で、大学名の不利を大学での学業成績で取り返すのは難しくなっています。
また入社においても大企業の多くは終身雇用に基づく新卒一括採用で、そこで失敗するとやはり取り返すのは困難です。
例えば損害保険大手の東京日動火災の新卒で入社した社員の割合は実に98.7%(東洋経済 「新卒でないと入りにくい会社」トップ100)を占めており、またアメリカのように中小企業から大企業へ転職するようなケースも滅多にありません。
このような「一度失敗したら終わり」と思わせてしまうような社会システムが自殺者を生み出す一因となっているのではないでしょうか。実際、日本以上に大学受験へのプレッシャーが掛かる韓国の自殺率は日本以上に高くなっています。

深く根付いているだけに変えるのは簡単ではないですが、上で述べたような日本の社会システムは自殺以外にも多くの歪みを生み出しているのも事実です。
自殺を考えている人への相談の充実や精神科医にかかりやすい環境など従来の対策も重要ですが、社会システムについて根本から考えるべき時が来ているのだと思います。

まとめ
・20代は景気に応じて確実に自殺は減っているため「若者の自殺が減らないというのは嘘」
・大きな変化がないのは正確には10代
・その背景には自殺する理由の違いがあり、自活している者の少ない10代では学業や進路が大きな悩みに
・10代がそれほど悩むのには日本の社会システムに原因がある可能性

 

自殺に関する議論だと日本人の国民性や文化を理由にする人も少なくありません。
それは説明する側は具体的な根拠も提示しなくていいので楽でいいでしょうが、だから変えられないという諦め論につながりかねませんし、実際には社会状況に応じて自殺率というのは大きく変化しています。
仮に遺伝等の影響があったとしても、社会を変えることで自殺率を下げてていくことは確実に可能です。
そのためにはメディアはあまり扇情的な報道をせず事実を伝えることに徹し、また僕たちはそれに流されることなく客観的に事実を把握したうえで改善策を議論していく必要があるでしょう。

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